シリーズその② 「カウンセリングのススメ」 第4話 「非財務資産としての人材~その②」
- ritsu_dragon

- 2024年6月22日
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読者の皆さん、こんにちは。
株式会社ユナイテッドの藤田です。
こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。
シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。
シリーズその②では、どの会社にもほぼ共通した課題で、なおかつ改善の効果が最も出やすい領域として「人材開発」を取り上げ、「カウンセリングのススメ」というタイトルで解説したいと思います。
第4話は、「非財務資産としての人材~その②」についてお伝えします。
人事評価制度と価値評価基準
第3話では、会社が必要とする人材の価値判断基準と、従業員の人事評価基準は同じではないとご説明しました。ですが、密接に関連していることは確かです。
会社は従業員という財産の価値を上げようとして、従業員はそれに応えようとします。そして、人材が育って活躍すれば会社の業績に好影響を与えるはずですが、当然ながらその従業員にも果実の分配が必要となります。つまり、会社は業績向上、従業員は昇給昇格という形で、成果を共有するWin-Winの関係にあるのです。
終身雇用制度が崩壊したと言われてから久しいですが、日本は欧米ほどドライな制度に移行したわけではありません。成果主義や能力主義が取り入れられた時期もありましたが、急激な変更は日本の労働法制の制約も大きいため、終身雇用に近い会社はまだかなりあると思われます。
終身雇用に近いということは、従業員を長期間雇用するモデルになるので、人事評価制度と人材価値判断基準は精密にリンクさせる必要があります。こういうスキルがついたら主任、こういうコンピテンシーが身につけばマネージャーなど、具体的なイメージを共有しながら長期的に実力を磨く取り組みを行います。
逆に極端な例として、外資系販売会社の日本法人や、訪問販売のセールスのように、営業マンの販売実績がすべてという会社であれば、長期的な人材育成の発想はほとんどありません。成果主義で極端な給与格差を設けて、成果を上げた者だけが残り、敗者は会社を去る構造なので、長期的な育成は意味がないのです。こういう会社では、販売スキルを徹底的に叩き込むと同時に金銭的なインセンティブを与えて鼓舞します。そして、向いていない人が必ず一定数出ることを想定して、現場で活用する営業マンが減らないようどんどん採用を続けます。こういう会社では人材開発の観点からのカウンセリングはなじまず、成果主義を徹底するために1 on 1(上司との個別面談)を用いて、営業テクニックに絞った指導を行うことが多いです。
人材価値判断と人事評価との間の調整弁
読者の皆さんは、「担当部長」という肩書の名刺をもらったことがあるでしょうか?
これは、人事評価上の職階は部長だが、実体のある組織の責任者ではないことを意味します。つまり、会社の中で部長が多くなりすぎて、肩書きだけの部長という扱いなのです。これは、終身雇用的な人事制度の会社ではよくある話です。
部長級の人材を多数育成できたということで、人材開発面では成功とも言えますが、古株の部長が役員に昇格していないのであれば、そこは人材開発としては失敗です。また、もっと会社が右肩上がりに成長して、新しい部署ができていれば、部長が余ることもなかったという言い方もできます。いずれにせよ、会社を経営する以上このような不整合は必ず起こると考えてください。大切なのは、上記のような調整弁の機能を準備しておくことです。
余裕や厚みのある制度設計
上記の例とは少し異なりますが、昇格させることはできなくても、会社には必要だというタイプの人がいます。監査法人の人事制度は弱肉強食で、「Up or Out(昇格するか辞めるか)」と言われる世界なのですが、実際の現場はそんな二元論的に単純な話では片付きません。部下を指導するのは下手なので昇格させられないが、現場を切り盛りさせたら抜群の能力を発揮する人もいるのが現実です。そういう人は現場を切り盛りして、周囲を喜ばせることに達成感を感じているので、部下を指導するためのコンピテンシーを身につけて欲しいと指導しても興味を示しません。つまりこのケースは、能力の問題ではなく向き不向きの問題なのです。
こういうケースには、少し余裕というか厚みのある人事制度や組織設計をすることをお勧めします。例えば、専門職制度のようなものを導入して、組織運営や部下の指導をしなくていい職位を新たに作れば、現場向きの人材を適切に処遇することができます。ちなみに私のいた監査法人では、それに似た制度を導入しましたが、制度設計も運用もポイントがズレていたので失敗しました。「Up or Out(昇格するか辞めるか)」が染みついた組織なので、あいまいな位置づけの職位はなじまなかったのかもしれません。
第3話と第4話は、会社の人材を資産として考えるための価値判断基準について解説しました。第5話では、その考え方に沿ってカウンセリングを行い、人材としての価値を上げるための手法について解説します。
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