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シリーズその③ 「経営者に考えて欲しい「公」と「私」」 第5話 「業務改善ケーススタディ(続き)」

読者の皆さん、こんにちは。

株式会社ユナイテッドの藤田です。

こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。

シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。

シリーズその②では、「人材開発」を取り上げ、カウンセリングについてご紹介しました。

そしてシリーズその③では、企業経営において私がとても大事にしている「公」と「私」について解説したいと思います。

第5話は、「業務改善ケーススタディ」というテーマの続きになりますが、ある事例をもとにして「公」と「私」のあり方を考えてみたいと思います。

給与体系見直し

今回ご紹介するケースにおける業務改善の柱は、給与体系見直しと営業改革の2つでした。私はそのうち、給与体系見直しを先に進めました。

当時の社員の感覚としては、給与や労働時間に対する不満が非常に強く、直近で週休2日制がようやく実施されたものの、それだけで不満解消には程遠く、まさに焼け石に水の状態でした。給与のベースが低く、またサービス残業が常態化していたので、手取り収入は上がらず、休暇が多少増えても家族を遊びにつれて行く家計の余裕がない状態だったのです。

そこで私は、社員を集めて会社と自分の将来を真剣に考えるための合宿を張り、彼らに「まずは君たちが欲しい給料はいくらなのか、好き放題言ってみなさい」と言いました。社員にたまる不満を解消するには、一度感情を発散させてから冷静な議論のレールに載せなければならないからです。

多くの社員の意見を集約して、社員が希望する給与テーブルができました。入社した時はいくら、主任に昇格したらいくら、課長になればいくら・・・のように、自分が今後会社で活躍すればどんな給与になるのかが可視化されたのです。ここで出来上がった給与テーブルですが、決して無茶な金額ではありませんでした。日本人特有のつつましさなのか、この会社の社員が持つ意識の高さなのか分かりませんが、高校の同級生や取引先との雑談から得られる近隣他社の相場観から逸脱しない範囲で、なかなか現実的な給与水準であったと記憶しています。

とはいえ、その目標給与テーブルは、会社が使っている現行給与テーブルに比べると高いものでした。そこで私は、労働分配率という言葉を使って会社目線からの適正人件費について解説しました。労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、給与や賞与などの人件費に充当される割合のことをいいます。会社が事業活動を行った成果は、以下の3つに分配されます。

①会社の留保利益(財務的な安定を増し、再投資の原資となる)

②株主への配当(リスクマネーを投資してくれた株主に対する還元)

③従業員への給与や賞与(会社の運営に必要な労働を提供した対価)

上記の①~③の合計に占める③の割合が、労働分配率です。私はこの会社の労働分配率を計算した結果、会社規模や業界平均から決して低くないことが分かりました。つまり会社目線から言えば、従業員への還元は決して少なくなかったのです。

私はこの事実を社員に見せて、なぜ社員目線と会社目線でこのようなギャップが生まれるのか問いかけました。答えは簡単なのですぐに出ましたが、「会社が儲かっていないから」です。付加価値が足りないので、上記①~③への分配が十分ではなく、そのため不満が出るのです。

そのような議論を経て、「じゃあ会社が儲けないと自分たちの給料も上がらないよね」という機運が高まってきました。そこで次に行ったのが、営業改革です。

営業改革

営業改革については、既存事業と新規事業を分けて検討しました。

まず既存事業ですが、同じものを売っているのに、営業所間で商流が微妙に異なることが問題でした。商流の全体としてはどこも同じなのですが、その中でこの会社がどの位置を占めるかによって、取引の相手先が変わってしまうのです。例えば、据付工事ができる工員を抱える営業所であれば工事込みで受注するけれども、そうでない営業所は工事部分を外注しなければならないといった違いです。そのような立ち位置の違いによって、取引先との力関係が変わってきますので、全社で統一した営業方針などが出しにくいのです。

この課題に関しては、現状把握に努めるだけとして、本格的な改善は将来に委ねることとしました。営業所ごとにマーケットの大きさが違いますし、長年の商慣行で取引先との力関係が決まっているので、それを変えるとすればこちらがもっと力をつけるための時間が必要だからです。ただ、各営業所の取引慣行を整理して、全営業所長が共通認識できたことは、大きな収穫でした。

既存事業についてもう1つ取り組んだことは、営業手法や顧客情報の連携です。営業所ごとに売れる商材と売れない商材を整理して、他の営業所でも売れそうな商材に関しては、営業所長同士で積極的な情報交換やサポートを行い、協力体制を敷くことにしました。これは画期的な改善で、これまで自分の営業所の売上しか気にしていなかったのですが、給与体系見直しで「営業所ではなく、会社全体の付加価値を上げないといけない」という意識が浸透したため、他の営業所への応援や情報提供に積極的に取り組めるようになりました。

次に新規事業ですが、こちらもすぐに着手できる課題と時間のかかる課題に分けました。すぐに着手できる課題とは、会社として既に発表した新規事業に関するものです。景気よく発表はしたものの、発注方法も価格も営業方針も何も決まっていないというお粗末な状況でした。本来であれば、営業担当役員からの指示で動くべき話なのですが、全く機能していなかったのでこちらで整理したのです。

時間のかかる課題とは、今後どんな新規事業を立ち上げるかということです。現場の声を拾うと、修理事業や買換え促進につなげるため、IoTを利用して振動センサーでデータ管理しようというアイデアが出ました。これだと既存事業に近いので営業が売りやすく、多額の投資も必要ないのでリスクが低く、競合する会社が見当たらなかったのでやるべきだという話になりました。

結果と振り返り

ここまで進めた業務改善だったのですが、結局は創業社長の鶴の一声でお蔵入りとなりました。理由は、これまで創業社長が自由気ままに動けていたのに、一定のルールの導入によりそれができなくなるからです。創業社長にとって、この会社はどこまでも「ワシの会社(私)」であって、「公」はどこにもなかったのです。今回の業務改善は、色々と不具合が発生していた会社(公)において、必要に迫られて行ったルールの見直しであり、一種のメンテナンス作業です。ご自身も高齢ですが、会社も長年の悪弊が溜まっていましたので、若返りを図る好機だったのですが逃してしまいました。

この創業社長にとっては、自分を否定されたような気分になったのだと思いますが、このように公私の区別がつかない経営者がいる会社は、きちんと定期的にメンテナンスしている会社に比べて、成長性や安定性や危機管理の点で大きく劣ります。

最後になりますが、会社は公器です。誰かが設立するので、最初は「ワシの会社」という気分になるかもしれませんが、一定以上の歴史や規模を備えた会社は公器でなければならないと私は思います。



 
 
 

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