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シリーズその④ 「PMI体験記」第5話「検出された事項 その①」

読者の皆さん、こんにちは。

株式会社ユナイテッドの藤田です。

こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。

シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。

シリーズその②では、「人材開発」を取り上げ、カウンセリングについてご紹介しました。

シリーズその③では、「公」と「私」について私の考えをご紹介しました。

そしてシリーズその④では、「PMI体験記」をお送りしたいと思います。

本日は第5話として、個別面談によって得られた事項を「検出された事項 その①」としてお伝えします。

事業の内容と競争力について

社員との面談により、事業の詳細を理解することができました。

まずモーター修理業ですが、さまざまな制約条件によって修理対応力に幅があります。産業用のモーターには様々な種類があり、発電所などで使う人間よりはるかに巨大なものもあれば、手のひらに載るような小さなものまであります。また、使用する電流によって直流式と交流式に分類されます。その他にも、インバーター付きとかブラシ付きとか変速機付きなど、用途によって細かく仕様が分かれています。

私は最初、モーターは劣化すれば交換するものだと思っていましたが、ほとんど例外なく修理で対応することを知って驚きました。製造工場に設置されているモーターは、その製造ラインの設計に合わせた特別仕様になっているため、全く同じ仕様の新品モーターを見つけることはほとんど不可能なのです。そのため、モーターが交換されるのは、その製造ラインが設計図ごと更新されるタイミングなのです。

S社が修理を手がけているモーターは、おおむね15kwから200kwぐらいまでのサイズで、工場で使うモーターの多くがこのサイズになります。これより小さなモーターは、採算が合わないので受けませんし、これより大きなモーターは、重すぎて工場のクレーンでは吊ることができないので受けません。その他にも、あまり広くない工場で大きなモーターを修理すると広いスペースを取りすぎて、全体の生産効率が落ちるなどの弊害がありますので、大きいものを1台受けるよりも、中小サイズのものを多数受ける方が、効率的に稼ぐことができることを知りました。

業界の特徴ですが、昔は多くの修理業者がいて競争が激しかったそうですが、高齢化とともに対応できる職人が減り、技術力さえあれば一定の注文は勝手に入ってくる構造になっていました。いわば、「残存者利得」を享受できる枯れた業界なのです。

また、修理の対応範囲についても特徴があります。最低限の修理は、ベアリング交換、洗浄、再塗装ぐらいですが、S社の場合は3つの特別修理が可能でした。1つ目はコイル巻き替えです。モーターの心臓部であるコイルは、経年劣化により絶縁が弱まると、電流がショートして焼損してしまいます。焼損したコイルは巻き直すしかないのですが、これができる職人が減っており、S社の技術力は貴重といえます。2つ目は溶射加工です。溶射加工とは、経年劣化ですり減ったシャフトやハウジングに金属粉を焼き付け、旋盤で整えて元のサイズに戻す技術をいいます。これができる職人はコイル巻き替えよりもさらに少なく、溶射加工に対応できるS社は業界内で知られた存在でした。3つ目はバランスマシーンです。これは、高速回転するコアの重心が真ん中にあるかを測定する機械で、ズレていたら重りを貼り付けてバランスを修正します。このバランス調整を行わずにモーターを使い続けると、ズレた重心の影響で劣化が早くなり、故障の原因となります。このバランスマシーンも、高価な機械なので持っている修理業者は少なく、わざわざバランス調整だけのためにS社に依頼が来ることもありました。

S社の競争力を知る上で他に大切なことは、納期対応です。モーターの修理タイミングには2種類あり、定期修理か故障のどちらかです。定期修理の場合は、工場の全設備が点検対象となり、モーター修理業だけではなく多くの修理業者が入り乱れますので、事前に綿密な計画を立てて順序よく進める必要があります。工場のラインからモーターを外す日時も、修理が終わってラインに再設置する日時も事前に決まっているので、モーターを手際よく外して、工場に持ち帰って期限内に修理を済ませ、再設置するまでの納期を守れる技術力が必要とされます。また故障の場合は、工場のラインが止まってしまう(予備のモーターがあれば別ですが)ので、一刻も早く修理しないと製造ストップによる機会損失は甚大なものになります。いずれにせよ、顧客が求めるのは短納期であり、それを可能にする技術力が修理業者の競争力となります。

私は、S社の事業を理解するために必要な上記の情報を、個別面談によって得ました。また、面談での説明を受けた内容を目で見て理解するために、何度も現場に足を運んで実際の作業を見せてもらいました。社員は多くが職人であり、それぞれが自分の技術にプライドを持っているので、素人の私がその手際の良さを素直にたたえると、とても嬉しそうにしていました。また、修理作業の現場は過酷な環境ですが、社員の大部分は骨惜しみをすることなく、献身的に作業に取り組んでくれていました。私は経営者として派遣されており、会社での立場は確かに上ですが、会社を支える本当の力は社員が持つ技術力と献身であることは間違いありません。その価値に対する敬意を私が表現することで、社員との距離感が近くなっていったように思います。

S社の競争力と市場での立ち位置

PMIに取り組む場合には、正確な情報に基づいて実行する必要があります。その意味において、私が個別面談で得た知識は貴重なものでした。前稿の内容を要約すると、下記の通りです。

・修理業者は年々減少しており、「残存者利得」を享受できる業界構造

・修理対象としているモーターは、一般的な中型サイズであり数が多い

・製造ラインで使われているモーターは、ライン更新まで修理して使い続ける

・修理工場の規模や設備は、中型サイズに適合している

・他社にはできない特別修理ができる(コイル巻き替え、溶射加工、バランス調整)

・厳しい納期に対応できる高い技術力を持っている

・過酷な環境で突発対応や深夜対応を受けてくれる献身的な社員がいる

ここまで理解できたことで、私がその後のPMIで判断を下す際は、ずいぶん楽なものになりました。新規参入の恐れのないリングを舞台に、鍛え上げた体格のいい選手(S社)が、コンディション抜群の状態で戦いに臨んでいるのですから、勝つ可能性が高いだけではなく、勝ち方にもこだわることができるのです。次稿では、同業他社の状況やその他の社内事情などの検出事項について、解説したいと思います。


 
 
 

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