シリーズその④ 「PMI体験記」第12話「マーケティング導入 その①」
- ritsu_dragon

- 2024年8月19日
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読者の皆さん、こんにちは。
株式会社ユナイテッドの藤田です。
こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。
シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。
シリーズその②では、「人材開発」を取り上げ、カウンセリングについてご紹介しました。
シリーズその③では、「公」と「私」について私の考えをご紹介しました。
そしてシリーズその④では、「PMI体験記」をお送りしたいと思います。
本日は第12話ですが、ポストPMIの第2弾として、「マーケティング導入 その①」について解説します。
マーケティング導入の必要性
もともとS社は、既存顧客からの継続注文と、同業他社からの紹介注文だけである程度の売上を確保していました。これはこの業種では珍しいことではなく、産業用モーターは定期点検をすることが一般的ですので、一定期間(例えば5年)が経過すれば同じ顧客から修理依頼が来ることが多いのです。発注側の顧客にとっても、前回の定期点検が品質的金額的に満足であれば、わざわざ修理業者を変更する必要もありません。
また、同業他社が年々減少する「枯れた業界」ですので、仮に変更したくてもなかなか代わりの業者は見つかりません。このような事情から、S社に限らず積極的な新規営業をしないモーター修理業はたくさんいます。
では、なぜこのような業種においてマーケティングを導入する必要があったのでしょうか?理由は大きく2つありますが、1つ目は現場の効率性です。モーター修理業は、一度に大量の台数を修理することはできず、工場の設備能力や作業員の人数により1日何台までという限界があります。例えば1日10台の修理ができる工場において、毎日10台ずつ修理注文が来れば、最も効率性がよ高くなります。ですが、ある日は0台、次の日は30台、その翌日はまた0台、のようにちぐはぐな注文になると、現場は混乱しますし、納期が合わない注文は受注を諦めることになります。実際、マーケティング導入前は、採算の低い案件を引き受けたり、工場の閑散期を埋める案件が見つからなかったりなど、現場の効率性が悪い事例がたくさんありました。なので、S社の側で受注案件管理を行って、工場にとって最も効率性の良い受注を目指す必要があったのです。
2つ目は、採算性の向上です。モーター修理業は残存者利得を享受できる業界で、需要は堅調ですが新規参入者もなく、高齢化により同業他社は徐々に減少していました。このような環境で、新規案件を探すことなく、既存案件と紹介案件のみに頼っていたのでは、積極的に価格交渉ができず、S社が持つ修理業の価値を十分に価格転嫁できないことになります。なので、S社が自ら新規案件を開拓して、複数の選択肢から採算性の良い案件を選別できるような環境を作る必要があると考えました。
マーケティング担当取締役の任命
私はまず、マーケティングの担当者を探すところから始めました。何から何まで私がやってしまったのでは、任期が終わって私がいなくなれば何も残りません。自ら手を出すことなく、担当者を任命してやり方を教えることが絶対に必要です。
ここで言うマーケティングは、いわゆる「技術営業」に近いものになります。つまり、本来の営業に期待される「売り込む」能力よりも、技術の説明を通じて顧客に「納得させる」能力の方が必要なのです。S社のケースで言うと、顧客に「当社のモーターは修理可能か?」と聞かれた時に、淀みなくテキパキと回答して、高い技術力を印象付けなければならないのです。このような理由から、私はS社にいた3人のプロパー取締役のうち、最も若手である30代の取締役Aさんを任命しました。
問題取締役の処遇
実はこのAさんには、ちょっと(かなり大きな)問題がありました。私がPMIの最初に行った個別面談で、多くの社員から彼への不満がボロボロと出てきたのです。その不満は、すぐに威張る、自慢話を延々と聞かされる、取締役の地位を笠に着て無理な業務命令を出す、パワハラを受けた、自分勝手な解釈を押し付けて現場を混乱させた、など多岐に渡っており、文字通り総スカンだったと言えます。
私はもちろん本人とも面談しました、確かに人間として未成熟な部分は見受けられたので、取締役になったことで自分が偉くなったような気になってしまったのでしょう。あまり悪気もなく、むしろ無邪気に「自分は取締役なのでそのぐらいは許されるはずだ」と解釈していました。
こういった問題児を、会社にとって害を及ぼすからと言って排除するのは簡単です。ですが私は、このようなケースで人を排除したことはありません。人間というのは大人になっても、どこかしら未熟な部分を残していることが多いのです。なので、排除ではなく教育で解決します。このAさんも、モーター修理工としての能力はピカイチでした。会社に迷惑はかけていましたが、悪気があったのではなく、そこに気づいていないだけだったのです。
私はAさんの取った行動の1つ1つについて、全部理由をつけてダメ出しをしました。ただし頭ごなしに怒るのではなく、①より人間的に成長してP社グループの経営陣に参画する、②このままS社の取締役として仕事人生を終える、③パワハラなどの問題行動が改善されずS社を去る、という選択肢を与え、この先の成長次第で君の将来が決まるので、自己改善するかどうかは自分で決めなさいと言いました。
一番彼に言った言葉は、「会社は君が威張るために取締役の肩書を与えたのではない。取締役としての責任を果たしてもらうために肩書きを与えた。責任を果たさずに威張るだけなら、取締役の肩書は返してもらう」というものでした。彼の問題行動は、「自分は取締役なので偉いんだ」という無邪気な勘違いに起因しています。取締役だから偉いのではなく、取締役として一般社員よりも重い責任を背負って頑張るから偉いんだと、何度も何度も説明しました。かなり思い込みの激しいタイプだったので、気づくまでにかなりの時間と手間がかかりましたが、私も手心を加えるつもりはなく、改善しなければ「③S社を去る」という選択肢を突きつける覚悟で指導しましたので、最後はかなりの改善がみられるようになりました。
Aさんはこれまでの問題行動により、取締役という地位にありながら自分の居場所を失っていました。私の指導により、彼の問題行動はかなり改善されましたが、それを他の社員が認識して彼を見直すまでには何年もの時間を要します。ですので私は、これまでAさんがいた居場所(製造現場)を復活させるのではなく、新しい居場所を作ることにしたのです。これがマーケティング担当取締役でした。
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