シリーズその④ 「PMI体験記」第14話「DX導入準備 その①」
- ritsu_dragon

- 2024年8月22日
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読者の皆さん、こんにちは。
株式会社ユナイテッドの藤田です。
こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。
シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。
シリーズその②では、「人材開発」を取り上げ、カウンセリングについてご紹介しました。
シリーズその③では、「公」と「私」について私の考えをご紹介しました。
そしてシリーズその④では、「PMI体験記」をお送りしたいと思います。
本日は第14話ですが、ポストPMIの第3弾として、「DX導入準備 その①」について解説します。
DXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がビジネス環境の変化に対応するために、デジタル技術を活用することで、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、自社の競争力を高めることをいいます。つまり、DXは従来型のオールドエコノミーに属する企業が、デジタル武装することで新たな競争力を得るための活動であり、どんな企業でも挑戦する可能性はあります。また、よく勘違いされているのですが、一部のITベンダーなどが「これであなたの会社もDX化できます」という触れ込みで販売しているアプリや仕組みは、ほとんどが的外れです。なぜなら、DXとは上記の定義にあるように、「自社の変革」に主眼があり、「デジタル技術」はその変革のための手段に過ぎないからです。外販されているDXを導入すると、一部の情報はデジタル化されると思いますが、それを使いこなすだけの変革が伴っていないため、DXとは似ても似つかない結果になります。
S社におけるDX
では、私がなぜS社にDXを導入しようとしたのか、どこに変革のヒントがあったのかについてご説明します。
①原価管理の精緻化
まずS社には、原価管理の基本的な仕組みが整っていたことが挙げられます。修理すべきモーターが搬入されると、作業指図書が発行され、分解・点検して修理箇所を特定します。その後、交換部品代と見積修理時間をもとに見積額が算出され、顧客が同意すれば修理が開始されます。
修理作業の実績も同じく作業指図書に記入され、指示通りの部品交換がなされたか、実際の修理時間はどのくらいかかったのか、見積vs実績で対比することができます。
問題は、この作業指図書がすべて紙で運用されていたということです。何枚もの紙に分かれて、作業員が手書きで記入していますが、デジタルデータにしないと最後は廃棄され、原価管理には使えません。なので、この作業指図書がデジタル化され、経営管理に活用できるようになれば、これが宝の山になると考えたのです。
②見積作業の効率化・採算管理の精緻化
次に考えたのは、業務の効率化です。紙ベースの作業指図書からタブレット端末に変化したところで、入力作業の手間は変わりませんので、作業員にとっての業務効率化は期待できません。ですが、過去の作業実績がデータベース化されていれば、そのデータを呼び出すことで見積作業は大幅に効率化できますし、勘や記憶に頼らないので見積額も精緻化されます。モーター修理業は、同じモーターを5年程度の周期で定期的に整備することが多いので、同じ型式のモーターの作業実績が参考にできれば、見積作業はとても楽になります。また、クレームや過去の失敗についても同時に分かるので、同じ過ちを繰り返さないように作業指示を出すこともできますし、特殊な作業が必要であれば、その分見積額に上乗せすることで、採算管理も精緻化されます。
見積りに時間がかかると、その間は顧客からの承認待ちなので、整備工場では手待ち時間となります。見積作業が早くなることは、現場の効率化にも貢献するのです。
③労務管理の精緻化
作業指図書のデータ化は、労務管理にも役立ちます。それまでの労務管理では、社員がよく働いたかどうかを判定するのは、タイムカードをもとにした総労働時間のみでした。ですが、社員同士ではお互いに言い分があって、あの人は作業が終わっているのにタイムカードを押さずに残業代をせしめているなど、タレコミが絶えず私の下に寄せられていました。作業指図書に記入される時間は直接作業時間ですから、これがデータとして集計されれば、会社の業績に直接つながる時間なのか、それとも準備作業や後片付けなどの間接作業時間なのか、すぐに分かります。「○○さんがサボっている」などの情報は、会社のモラル低下を招くので対処が必要です。直接作業時間が把握できれば、サボっている社員の指導が容易になります。
④スキル管理・人事評価
何度かご説明しましたが、S社はテクノロジーファーストの会社です。なので、スキルマップを整備して経営管理に活用したことはすでにご説明しました。ですが、スキルマップで評価された通りの実力を出しているかの検証は必要になります。例えば、スキルマップで「1人で作業できる」という評価を受けているのに、実際の作業では誰かに手伝ってもらったのでは、スキル評価が間違っていたことになります。また、スキルマップで「部下に指導できる」という最高評価を得ているのに、ダラダラと作業して実力通りの時間に終わらない人がいれば、会社への貢献度という点で査定を下げなければならないでしょう。技術を大事にする会社であるからこそ、技術力向上だけではなく、その技術を会社のために発揮しているかどうかの管理も重要なのです。
S社の持つ底力
このように、従業員30人程度の中小企業であっても、DX化のデザインは十分に可能なであることがお分かりいただけたと思います。ただし、これはS社が地道に積み重ねてきた経営管理が基盤にあることにご留意ください。S社をご紹介した当初から、この会社は中小企業には珍しいレベルの経営管理を備えているとご説明していました。スキルマップを整え、社員教育を施し、ISOの認証を取得し、作業指図書による工程管理をきちんとしてきたからこそ、デジタル化の基盤が整っていたのだと言えます。
私が読者の皆さんにお伝えしたかったのは、皆さんの会社でもDXは導入可能だということです。会社を変革する気概があって、会社の業務をきちんと整理できれば達成可能なのです。次稿では、S社においてどのようにDX化を進めたのか、システムにどんな機能を持たせたのかについてご説明します。
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