シリーズその② 「カウンセリングのススメ」 第1話 「決算書に載らない経営資源=ヒト」
- ritsu_dragon

- 2024年6月19日
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読者の皆さん、こんにちは。
株式会社ユナイテッドの藤田です。
こちらのブログでは、私が公認会計士及び経営者として経験した事例をもとに、日本の企業をもう一度輝かせるためのさまざまな考察や提案を配信していこうと考えています。
シリーズその①では、課題解決の入り口として、壁打ちコンサルについてご紹介しました。
シリーズその②では、どの会社にもほぼ共通した課題で、なおかつ改善の効果が最も出やすい領域として「人材開発」を取り上げ、「カウンセリングのススメ」というタイトルで解説したいと思います。
まず第1話は、「決算書に載らない経営資源=ヒト」についてお伝えします。
経営資源の管理可能性
読者の皆さんは、重要な経営資源とは何かと聞かれれば、すぐに「ヒト・モノ・カネ」と答えるでしょう。時代の流れとともに、「情報」を加えて4大経営資源と言ったり、さらに「時間・知的財産」を加えて6大経営資源と言ったりしますが、やはり最も大事なものは冒頭の3大経営資源です。
それでは皆さんは、この3大経営資源のうち、管理が一番難しいのは何だと思いますか?私はこの話題になった時、ヒトが一番難しいと答えています。理由は簡単で、モノとカネは会計として認識され、決算書という管理可能な報告書にまとめられますが、ヒトは会計が認識する対象ではないからです。
「貴社の人材は?」と聞かれて、数字で明確に答えることができるのは人数ぐらいです。あるいはそれに加えて、資格(免許)を持った人数が何人いますとか、平均年齢は何歳ですと答えることもできますが、人材の質や量を客観的に表現するのはとても難しいのです。
つまり人材に関しては、優秀です、若いです、意欲あります、経験ありますなどの抽象的な表現でしか評価できないので管理が難しく、その分経営者として腕を振るう余地が大きいと言えます。
「非財務資産」という概念
少し話が脱線して恐縮ですが、皆さんにはここで「非財務資産」という概念についてご説明しておきます。非財務資産とは、財務会計の対象とならない資産のことです。すでにご説明した人材のほか、情報資産、会社の知名度、取引関係なども非財務資産として挙げられます。のれんや知的財産については、一部限定的に資産計上される場合もありますが、ほとんどは非財務資産です。
私は会計士として、長年会計監査に従事してきましたが、監査の歴史は即ち非財務との戦いと言っても過言ではありません。上場会社の決算書に、なぜ会計士の監査報告書が必要なのかご存じでしょうか。それは、上場会社の決算書には、投資判断に必要な情報が含まれているという前提と、その決算書が正しいという客観的な証明と、この2点が必要だからです。もしも、非財務資産の重要性が増す(つまり決算書の重要性が相対的に低下する)ことでその前提が崩れ、決算書だけではその会社を理解できなくなったとすれば、監査を受ける意味がなくなります。
複式簿記は15世紀のイタリアで発明されたと言われていますが、当初は1航海ごとの損益計算という、ごく単純なものでした。ビジネスが今日までにどんどん複雑化し、財務会計で表現できる限界を超えてしまったために、非財務資産の範囲と重要性が上がっているのです。
デジタル化の歴史と非財務資産
それでは、非財務資産の範囲と重要性が上がった背景には何があるでしょうか?
私が大学を卒業したころ、会社の業務は専用端末から基幹システムに入力するスタイルでした。汎用性のあるパソコンは、ようやくビジネスの世界に登場したばかりで、アプリも少なかったため、基幹システム入力までの業務はまだ手書きが中心でした。その頃に経営管理の対象となっていた情報は、多くが最終的に財務情報となるデータでした。言い方を変えれば、手書きの時代に人力で処理できる情報量には限りがあり、情報が資産であるという概念も乏しかったように思います。
その後パソコンが一般化し、汎用機から基幹システムに入力するようになって、経営管理の対象となるデータは飛躍的に増加しました。すると生産管理、販売管理、在庫管理、人事管理など財務情報に直結しないデータも、様々な形で経営管理に活用できるようになりました。このあたりから、非財務資産である情報資産の価値が一気に上がり、現在に至ります。ただし現在でも、個別パソコンのデスクトップで保管されている資料など、電子データではあるが会社共有の情報資産ではないものもあります。
そして今後は、DXによる会社の変革が期待されています。会社のあらゆるデータは一元管理されて、他部署や社外のデータと連携して分析され、分析結果をもとに経営判断するというスタイルに変わっていくと思われます。
このように、会社のデジタル化の歴史に沿って、まずは情報資産が価値を持つようになりました。そしてその他の非財務資産も、このデジタル化によって資産化の条件が整いました。この続きは第3話に譲りたいと思います。
「ヒト」という経営資源の重要性
読者の皆さんは、月に1億円の売上がある取引先を失ったとすれば、ショックを受けられると思います。また、10億も投資した生産設備が故障して、2千万の修理費用がかかって、1週間の操業停止に追い込まれたとすれば、これもショックだろうと思います。これらは、貨幣価値で具体的に表現できるので、理解が容易なのです。
では、社員が1名辞めたと聞いた時、どのように感じられるでしょうか?多くの人は、「誰が辞めたの?」「どうして?」などのやり取りの後で、「代わりの人材を採用しようか」という結論になると思います。
ですが、この社員が月に1億円の売上をたたき出すトップセールスであればどうなるでしょうか?おそらく無理やり慰留したり、取引先に挨拶に行ったり、会社がひっくり返るような大騒ぎになるでしょう。
上記はかなり極端な例ですが、例えばもっと日常的な話ならどうでしょう。順調に会社のスキルを吸収して成長しているか、与えられた仕事や処遇に満足しているか、上司や同僚との関係は良好か、会社の期待する業績を上げてくれているか、会社に対する帰属意識は高いかなど、人材に関してつかんでおきたい情報は多いはずですが、私の知る限りこの課題に深く取り組もうとする経営者は少ないように思います。その理由は、「ヒト」という経営資源を重要視していないのではなく、つかみどころがなくて着眼点が分からないからだと思います。このシリーズを通じて、人材開発の重要性を再認識し、着眼点を見つけていただきたいと思います。
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