相談できる人は?
- 健一 三浦
- 2022年6月3日
- 読了時間: 4分
事業承継に備えるための第一歩は、「現状を正確かつ客観的に把握し、整理する」ことです。なぜなら、事業承継には複雑な課題が数多くあることが通常で、しかもそれは会社ごとに千差万別であるため、頭の中で何となく考えているだけでは、解決の助けにはならないからです。ではその論点整理をする場合、どんな人に相談できるのでしょうか。
税理士、会計士、弁護士、社労士など、長年顧問として会社に関与していた専門家に相談するパターンが、最も多いのではないでしょうか。会社の現状をよく理解している上に、それぞれの分野での専門性もありますので、相談相手としては最適です。事業承継にまつわる財務、税務、法務、事業計画、取引関係のような専門分野だけではなく、人材育成、技術承継、あるいは後継者選びまで、かなり踏み込んだ相談ができる場合もあります。さらに、M&Aの実務経験がある会計士や弁護士であれば、譲渡価格の評価や譲渡スキームの策定支援などを依頼できる可能性もあります。
銀行などの金融機関も、相談相手になることが多いでしょう。会社の財務や税務に関する相談ができるだけではなく、経営者個人の財産を把握していることが多いので、老後の生活設計について提案してくれるケースもあります。また、金融機関が持つ顧客ネットワークを活用して、買い手企業や後継者人材を紹介してくれる可能性もあります。
M&A仲介業者も相談相手になれますが、専門家や金融機関の場合と比べて少し異なる点があります。それは、会社の事情や経緯をよく知らないという点と、会社との利益相反が起こりやすいという点です。前者に関しては、込み入った相談をしなければ済むだけですが、後者に関しては注意が必要です。それは、M&Aの成約こそが彼らのビジネス目的だということに起因しています。
例えば、親族や会社の従業員に事業承継するか、第三者にM&Aで会社を売却するかを選べるとしたら、彼らの望みとしては後者です。また彼らの手数料は、売主だけではなく買主からも取る両手取引が多く、さらに最低手数料が設定されていたり、譲渡金額が安いと手数料が割高な計算方法(レーマン方式)を使っていたりするために、譲渡金額では折り合えても手数料が高額すぎて売買を断念するケースも見受けられます。取引先金融機関や、日本政策金融公庫など、手数料を取らずに事業承継のマッチングをしてくれるところもありますので、会社の規模や後継者候補の事情なども勘案して、慎重に選ぶことをお勧めします。
M&A仲介業者の利益相反について解説しましたが、実は他の相談者にも利益相反はあります。例えば会社と契約している専門家であれば、事業承継の結果次第で自分の顧問契約が打ち切られるかもしれないという立場ですので、現経営者の続投を願うこともあるでしょう。また金融機関であれば、後継者が決まっていないとか、現経営者が高齢であることは融資先として健全とは言えないので、事業承継に肯定的な立場であると言えます。誰でも自分の立場があって、その上で経営者に助言をしてくれているのですから、相談する側としてはそこを十分理解しておく必要があります。
利益相反の少ない相談相手としては、事業承継のコンサルタントという存在も一つの選択肢です。彼らは事業承継の成否にかかわらず、支援業務として報酬を得ているので、成功報酬型よりも会社に寄り添ってくれる傾向があります。また専門的な知識もあるので、使い方次第では心強い味方になるでしょう。
ただし問題は、報酬の金額です。コンサルタントとの契約には、サイズの小さな案件でも数百万円は覚悟しておいた方がいいので、小さな会社を身内同士で承継するなど、お金をかけたくない案件に適しているとは言えません。ただそのような場合でも、取引先金融機関や日本政策金融公庫などが事業承継の相談窓口を持っていますので、そこに相談することをお勧めします。
その他に、家族や友人などが相談相手になることもあります。人間関係次第なので一概には言えませんが、会社では見せられない悩みや弱音を、家族であれば言えることもあるでしょうし、利害関係のない友人が、外部者の目線でいいアドバイスをくれることもあります。
経営者にとって事業承継とは、自分の仕事人生の幕引きを自分で行うことですから、理屈では分かっても感情では受け入れにくいこともあります。大いに悩んで、適切な相手に相談して、家族や友人に慰めてもらったり励ましてもらったりして、着実に進めていくことが大事だと思います。
コメント